著名な映画監督の息子が必ずしも映画監督として成功するわけではないことは映画史で証明されている。だが、パナー・パナヒはその監督第1作において父ジャファルに勝るとも 劣らぬ才能を発揮した。とりわけ、あり余るエネルギーを発し続ける子役ラサン・サルヤクを見出したことはこの映画の最大の功績である。パナー・パナヒの次回作が今から待ち遠しい。
市山尚三
(東京国際映画祭プログラミングディレクター)
大切な息子との永遠かもしれない別れの時間。一分一秒が切ない。
荻上直子(映画監督)
4人と1匹の家族は、なぜ僻地を車で走っているのか? どこに向かっているのか? 家族のなかの幼い男児と同じく、観客もそれを知らない。本作は、大人たちの仕草や言葉のはしばしから、その謎を読み解いていくミステリーだ。答えにたどり着いたとき、われわれはその先にある激しい感情の揺らぎに心を重ねることができる。
小野寺系(映画評論家)
イランの荒野を走る一台の車を通して見える風景、渇いたユーモアのある会話劇がとても魅力的。 家族が過ごす別れまでのかけがえのない瞬間を見守りながら、この社会を生きていく”君”の未来を想った。
川和田恵真(映画監督『マイスモールランド』)
往年の流行歌を口ずさむ母、おしゃべりの絶えない次男とそれに応じる父親は典型的なイラン人家族の姿にほかならず、タイトルに反し作品の醸し出す空気は明るい。懐メロの歌詞も作用し、一家と「未舗装の街道(原題)」を進むにつれ、観客にはイラン社会の抱える問題が浮き彫りとなる。詩的リズムで音楽的に語られるペルシア語の台詞やイランの厳しい自然の織りなす景色も、本作の魅力と言えよう。
佐々木あや乃(東京外国語大学教授)
父ジャファルから受け継いだ圧倒的な才能は、誰にも縛り付けることはできない。家族が車で走り続けるだけのロードムービーでさえも、完璧なキャスティングと圧巻の映像、そして見事な演出で観る者の想像力を極限まで掻き立てる。彗星のごとく現れたパナー監督が切り開く道の先で私たちが目にするのは、“イラン映画の希望”だ。
志村昌美(ライター)
様々なシーンに、パナー・パナヒ監督の「イラン」という国に関するメッセージが詰め込まれた作品。完成されたストーリーを楽しむのはもちろん、エンタメ以上の意味を持つ本作は、片時も目が離せない。是非この映画から、様々な「イラン」を感じ取って欲しい。
杉森健一
(イランの良さを伝える人/PERSIAN TAG 代表)
外国に旅立とうとする長男。彼をトルコ国境まで見送る家族の、時にコミカルで時に静謐な会話。 瑞々しい感性をもったイランの新世代の映像作家の登場だ。
鈴木 均(東洋文庫/イラン研究者)
家族の旅はそれだけで社会、そしてその向こうへと通じている。ロードムービーとしての楽しさと切なさを味わいながらも、あまりに素晴らしい次男の存在から目が離せない。
ダースレイダー(ラッパー)
イラン版『リトル・ミス・サンシャイン』を彷彿とさせる、 癖の強い家族のロードムービーがユーモラスかつファンタジックであるほどに、イランの抱える苛烈な現実が、観る者に静かに深く突き刺さる。
中井 圭(映画解説者)
“最後の最後”まで、口を開けば憎まれ口を叩かずにはいられない、訳ありの大人たちと自由奔放な“小さな怪獣”(+犬1匹)が、イラン辺境で繰り広げるメランコリックな珍道中。カーステレオから流れる古い歌謡曲に合わせて全力で踊り、感極まり「アイ・ラブ・ユー!」と叫んで高らかに歌い上げる姿に、心揺さぶられずにはいられない。イラン映画界の新星・ここに誕生せり!
渡邊玲子(インタビュアー・ライター)
(敬称略・50音順)