2024-2025年冬 映画市場を席巻した4作品から見るプロモーション戦略

概要
このコラムでは、2024年-2025年冬季シーズンの映画市場において、特筆すべき成功を収めた作品のプロモーション戦略について分析していきます。
『はたらく細胞』『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』の4作品について、エンタメプロモーションを得意とするフラッグ代表の久保が解説します。
目次
- エンタメ企業社員が選ぶ!今期話題になった映画ランキング
- 『はたらく細胞』
- 全世代型エンターテインメントの確立
- 教育的価値と娯楽性の両立
- コロナ後の映画館体験の復活
- 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』
- ファンの「待ちきれない!」を引き出す先行上映戦略
- 話題性の戦略的創出
- 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
- 公式Xのエンゲージメント率の高さ
- ジャンルの壁を超えた展開
- 予備知識不要で楽しめる作品性
- 『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』
- 「かつて作品を楽しんでいた」新規観客層の開拓
- IPのリファイン戦略
- まとめ
エンタメ企業社員が選ぶ!今期話題になった映画ランキング

2024年-2025年の冬季シーズンは、様々なジャンルの注目作が公開され、それぞれが独自の戦略で話題を集めました。
フラッグでは、映画プロモーションに携わる社員を対象に「この時期に大きく話題になったと考える劇場公開映画」についてアンケートを実施。117名から回答を得た結果、実写化作品『はたらく細胞』が44.4%(52票)と圧倒的な支持を集める結果となりました。
2位に『グランメゾン・パリ』(11票)、3位に『モアナと伝説の海2』(10票)が続き、4位には『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』と『劇場版 忍たま乱太郎』が同票(各8票)でランクイン。6位には『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』(7票)が続いています。
次の項からは、この中から特に注目すべき4作品を取り上げ、それぞれのプロモーションにおけるアプローチ方法を、弊社代表の久保の考察を交えて解説します。
『はたらく細胞』
実写映画における従来の常識を覆し、アニメ映画が得意としていた領域に新たな可能性を示した本作は、映画界における注目すべき転換点となっているといえます。
全世代型エンターテインメントの確立
実写映画において「家族で見に行ける映画」「老若男女関係なく楽しめる映画」というポジションを確立できたことは、非常に大きな意味を持っています。
これまでこの領域はアニメ映画が担っていましたが、実写でこのポジションを確保できたことで、今後の映画界における新たな可能性を示すことができたのではないでしょうか。
ジャンルが細かく分かれやすい実写映画において、このようなオールターゲット展開が成功したことは、今後の実写映画製作における重要な指針になるといえます。
教育的価値と娯楽性の両立
「面白かった」「泣けた」という一般的な感想に加えて、「勉強になった」「健康について考えさせられた」という、他作品ではあまり見られない特徴的な感想がSNS上で多く見られました。本作ならではの価値提案が、このような口コミの拡散につながったと思われます。
特に、教育的な要素が説教臭くならず、エンターテインメントとしての面白さを損なわない形で提供されたことが、視聴者からの自発的な学びの感想を引き出すことにつながったのではないでしょうか。
コロナ後の映画館体験の復活
コロナ禍で失われていた「家族で映画を見に行く」という習慣が、この作品をきっかけに徐々に戻ってきているといえます。
映画館という場所で家族が同じ体験を共有し、それぞれの視点で感想を語り合えるという価値を改めて提示できたことが、この変化を促進する要因となったと考察します。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』
TVアニメと劇場版の関係性を戦略的に再定義し、新たなビジネスモデルの可能性を提示した本作は、アニメビジネスの未来を示唆する事例となっています。
ファンの「待ちきれない!」を引き出す先行上映戦略
TV放送前の劇場先行上映という手法は、アニメ業界における新しいビジネスモデルとして注目を集めています。「鬼滅の刃」なども採用しているこの手法は、ファンの「待ちきれない」という心理を効果的に活用した戦略といえます。
特に、映画館の優れた視聴環境で作品を楽しみたいというファンのニーズと、他者より早く作品を体験したいという欲求を同時に満たすことで、新たな収益機会を創出することに成功しているのではないかと思います。
話題性の戦略的創出
ネタバレを避けながら作品の魅力を語るという、ファンの自制的な情報発信が独特の話題性を生み出しています。この「語りたいけど語れない」というジレンマ自体が、新規視聴者の興味を喚起する要因となっているといえます。
SNS上でのWOM(Word of Mouth)として広がったこの現象は、プロモーションにおける新しい可能性を示唆しているのではないでしょうか。
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
ニッチな作品としての出発点を、SNSを活用した戦略的な情報発信により大きなムーブメントへと発展させた本作は、興行規模が中小規模である映画作品のプロモーションの新しいモデルケースといえます。
公式Xのエンゲージメント率の高さ
公式Xアカウントの投稿における驚異的なエンゲージメント率は、SNSマーケティングの効果的な展開方法を考える上で注目すべき事例となっています。
本作の公式Xは、フォロワー数2万人弱でありながら1投稿あたりの反応が非常に高く、熱量の高いファン層の形成に成功しています。
特筆すべきは、ジャンル映画ファンの細かな趣向の違いを超えて、一体となった応援を引き出せた点であり、これは今後のSNSマーケティングにおける貴重な成功事例となりそうです。
ジャンルの壁を超えた展開
アクション、コメディ、ノスタルジーなど、複数のジャンル要素を効果的に組み合わせることで、従来の香港映画ファン以外にも強い訴求力を持つ作品となっています。
この多面的な魅力が、SNSでの自発的な推薦行動を促進する要因となっており、結果として新しい観客層の開拓につながったといえます。
予備知識不要で楽しめる作品性
シリーズものが主流となっている現代において、予備知識なしでも楽しめる作品性は、新規観客の獲得において大きな強みとなっています。
この「エントリーポイントの低さ」が、口コミによる観客動員の成功要因となっており、特にSNS時代において優位性を発揮する特徴といえるのではないでしょうか。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』
子供向けコンテンツという既存イメージを超えて、大人の観客層を効果的に取り込んだ本作は、アニメIPの可能性を広げる重要な成功例となっています。
「かつて作品を楽しんでいた」新規観客層の開拓
かつての「忍たま乱太郎」を視聴していた20-40代女性という新しい観客層の獲得に成功しています。子供向けアニメというイメージを超えて、大人も楽しめる作品として再構築されたことで、IPの新たな可能性を示すことができたといえます。
このような観客層の拡大は、アニメIPの価値を最大限に引き出すための有効なアプローチといえるでしょう。
IPのリファイン戦略
子供向けIPを大人も楽しめる作品として再構築する手法は、日本のアニメ業界における特徴的な強みとなっています。特に海外展開を視野に入れた際、このような多層的な楽しみ方ができる作品作りは、市場価値を高める重要な要素となっているといえます。
毎年大ヒットを記録している「名探偵コナン」などと同様、この戦略は今後のアニメIP展開においても鍵となる指針となっていくのではないでしょうか。
まとめ
映画プロモーションの成功は、作品の質の高さはもちろんのこと、その作品が持つ独自の魅力をいかに効果的に伝えられるかにかかっているといえます。SNS時代においては、従来の宣伝手法に加えて、自然な口コミの発生と拡散をいかに戦略的にデザインできるかが、より一層重要になってきています。
弊社では映画作品をはじめ、エンタメ領域のデジタルプロモーションを得意としております。SNSでの効果的な発信方法に課題を感じている方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談いただければと思います。